「ヤングムスリムの窓」は、現代社会とイスラームを専門とする文化人類学者の阿毛香絵(京都大学)、アーティスト/映像作家の澤崎賢一(総合地球環境学研究所)、イスラームとジェンダーを専門とする野中葉(慶應義塾大学)が共同で企画したプロジェクトです。
このプロジェクトでは、日本の新たな世代を担うヤングムスリムの生活や活動に焦点をあてた調査研究を行うと同時に、当事者参加型の映像作品を作り、映像コンテンツ、メディア媒体が社会やアクターに与えるインパクトについても検討しながら新たな表現を開拓することを目指しています。
ここでのヤングムスリムには、イスラーム圏出身の親を持ち日本で生まれ育った2世やイスラーム教徒に改宗した日本人など、様々なプロフィールの若者たちがいます。彼らは宗教を実践しながら、日本で自らを取り巻く人々や社会とどのような関係性を築いているのでしょうか。プロジェクトの創発的な活動を通じて、ヤングムスリムたちの「まなざし-窓-」を通した世界を見てみたいと思います。
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近年、移動手段やメディア/情報通信技術の発達により、映像鑑賞の関係性がマスメディアから視聴者へといった単方向的なものから、YouTubeやSNSなどを活用した誰しもが発信者でも視聴者でもありうる双方向的なものへと変化してきました。このようなメディア環境において、地球規模での環境/エネルギー問題、文化の多様性の保持など、さまざまに持続可能性が問われています。にもかかわらず、多くの情報は当事者性が希薄で、そのほとんどが日々消費され忘れ去られているように感じられます。
このとき、インターネット上の情報消費サイクルとはまた別に、自らカメラを抱えて出来事に関わることで、自らの「問い」の発見に結びつく映像制作がありえるのではないかと考えています。それこそが諸問題に「個」として接していくための手段となるのではないでしょうか。誰しもがカメラを手にすることができる時代だからこそ、映像メディアが生み出す関係性やコミュニケーションのあり方に着目する意義があると考えています。
これらの背景を踏まえ、以下の3点を本プロジェクトを行っていく上での課題として考えています。
「ヤングムスリムの窓」では、日本社会における価値観の多様化、新たな世代の自己認識やナラティブの可能性に着目しつつ、映像作家、文化人類学者や宗教学者、ヤングムスリム当事者たちの協働による映像制作を通した研究、芸術実践を試みます。特に、このプロジェクトが対象とするのは、日本で生まれ育ったイスラーム教徒2世、あるいはイスラーム教徒に改宗した日本人などであり、日本の文化で生きる若者です。
プロジェクトの活動を通じて、彼らヤングムスリムが宗教を実践しながら、日本で自らを取り巻く人々や社会とどのような関係性を築いているのかを明らかにすると共に、映像制作の過程における異なるアクター(研究者、当事者、撮影者、参加者等)同士のやり取りや制作プロセスそのものに焦点を当て、それを作品となる映像やメディア表現の一部として取り込みつつ評価、分析していきます。
イスラーム社会や文化に関する研究を行ってきた野中・阿毛が中心となり、自らYouTube・SNSを活用して情報発信を行う日本に暮らすヤングムスリムへの取材やリサーチを行う。
ヤングムスリムであるアリアン、ユヌス、長谷川を協力者とし、映像作家である澤崎がヤングムスリムへの映像制作ワークショップを行う。ワークショップでは、ドキュメンタリー的志向を持った映像作品を紹介し、カメラがもたらす関係性に着眼しながら、分野の異なる者同士のコミュニケーションに活かせるような映像の活用方法についてヤングムスリムらと共有する。
ヤングムスリムらが自ら映像制作を行い、鑑賞会/意見交換会を開催する。
ヤングムスリムらの映像作品+制作過程の記録をSNSやYouTube、展覧会で一般公開する。
①~④のプロセスの中で、映像メディアの制作者、研究者、そしてムスリム当事者という垣根を超えた新たな学問と芸術実践の構築について、方法論的見地から評価、分析を行う。
本プロジェクト全体の活動を記録したドキュメンタリー映画を澤崎・新明が制作、公開する。
以上の取組みによって、多様な主体が信仰を守りながら、日本社会の中に自らを位置づける一例を映像やメディアを通して表現し鑑賞者と共有することにより、映像メディアを学術研究と芸術・社会実践の双方において活かす方法を実践的に明らかにしていきます。
1. 映像作家、文化人類学者、宗教学者、ヤングムスリムら全員での共著論文
2. ヤングムスリムの映像作品
3. プロジェクト全体の活動を記録したドキュメンタリー映画
※五十音順
アフメド・アリアン
Ahmed Alian
株式会社Rhetica CEO/早稲田大学 学生。グローバル進出支援のアナリストの経験後、株式会社日本経済新聞でのリサーチ業、NHK国際ラジオ局でアシスタントディレクター、教育系ベンチャーにてPMとしてプロジェクトに従事し、株式会社Rhetica CEOに着任。VC&スタートアップスタジオの株式会社RiskTaker アソシエイトとしてスタートアップの事業開発、戦略策定や資金調達支援も行なっている。大学では研究をしている。歴史学、哲学(認識論、存在論)、神学(イスラーム)、言語学、金融、経済理論が守備範囲だ。学部はリベラルアーツ。
阿毛 香絵
Kae Amo
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 助教。文化人類学博士(フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)・セネガル国立ガストンベルジェ大学ダブルディグリー)。
ユヌス・エルトゥルール
Yunus Ertuğrul
1998年岡山生まれ。江崎グリコ株式会社勤務。慶應義塾大学総合政策学部を卒業。野中研究会OB。トルコ人の父と日本人の母を持つ。ヤングムスリムとして岡山の小中高で育ち、大学ではムスリムコミュニティの発達した首都圏での経験から、日本社会やヤングムスリムへの情報発信を行う。Instagram「あなたの街の金曜礼拝」を運営。
@japan_mosque←Instagram
@yunu_nanshon←Twitter
澤崎 賢一
Kenichi Sawazaki
1978年生まれ。アーティスト/映像作家。総合地球環境学研究所 特任助教。一般社団法人「暮らしのモンタージュ」理事。京都市立芸術大学大学院 博士(美術)。近作に、多重層的ドキュメンタリー映画『#まなざしのかたち』(124分, 2021, 東京ドキュメンタリー映画祭「長編コンペティション部門」選出)、劇場公開映画『動いている庭』(85分, 2016, 第8回恵比寿映像祭プレミア上映)など。
新明 就太
Shuta Shimmyo
1982年、東京都生まれ。映像作家/東京芸術大学 非常勤講師。ロンドン芸術大学:セントラルセントマーティンズ純粋芸術科3D卒業。15 歳から単身渡豪。高校卒業後を経て現地の映像プロダクションに就職し、国内外の多くのテレビCM、ミュージックビデオ、ショートフィルム、ドキュメンタリーなどに携わる。25歳で渡英。大学卒業後から三上宥起夫に師事。映像制作会社ロックンロール・ジャパン株式会社に所属後、 独立。有限会社ケーブル・スタジオを設立し、ドキュメンタリー作家として活動中。
野中 葉
Yo Nonaka
慶應義塾大学 総合政策学部 准教授。2005年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、2011年同後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。専門は地域研究(インドネシア)。主な関心は、現代インドネシア社会におけるイスラームの受容と広がり。
長谷川 護
Mamoru Hasegawa
2000年、東京都生まれ。/ 慶應義塾大学総合政策学部 学生 / 野中研究会「ムスリム共生プロジェクト」 所属/興味分野は、都市社会学、地方自治、移民。/ 2020年5月にイスラームへ改宗 /高校時代の友人と共に銭湯をゆる〜く哲学するWebメディア『湯の輪らぼ』を運営 /秋葉原社会保険労務士法人にて、ムスリム社員としてコラム執筆中。
主催
ヤングムスリムの窓:芸術と学問のクロスワーク
共催
一般社団法人リビング・モンタージュ
慶應義塾大学SFC 野中葉研究会 ムスリム共生プロジェクト
企画(共同企画)/製作
阿毛 香絵(文化人類学/アフリカ地域研究、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 助教)
澤崎 賢一(アーティスト/映像作家/キュレーター、総合地球環境学研究所 特任助教)
野中 葉(現代東南アジア研究/現代社会と宗教、慶應義塾大学 准教授)
ヤングムスリム
アフメド・アリアン(株式会社Rhetica CEO/早稲田大学 学生)
ユヌス・エルトゥルール(社会人、江崎グリコ株式会社)
長谷川 護(地域コミュニティ研究/銭湯、慶應義塾大学 学生)
ドキュメンタリー映画制作
澤崎 賢一
新明 就太(映像作家/東京芸術大学 非常勤講師)
関連研究
CAACCS基幹研究「アジア・アフリカのイスラーム文化理解とダイバーシティ促進へ向けた取り組み~新しい共生社会を担う世代から~」(研究代表者:阿毛 香絵)
CAACCS芸術研究「研究者とフィールドの「あいだ」で映像メディアを活用した新たな創造性」(研究代表者:澤崎 賢一)
助成
京都市「Arts Aid KYOTO」補助事業